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千葉家庭裁判所 昭和55年(少ハ)2号 決定

少年 Y・S(昭三五・一・一六生)

主文

本人を昭和五五年七月三日から同年八月二日まで中等少年院(多摩少年院)に継続して収容することができる。

理由

(本件申請の要旨)

本人に対してはこれまで欲求の統制力を養い、見栄を張らず地道に行動することを習慣化させるべく少年院において処遇し、その結果自分の行動を客観視できるようになり、課題に対する取り組み、行動に対する慎重さに進歩が認められるに至つている。しかし一方、過去三回の紀律違反(うち一回は降級処分となつている)のほか、一級上に進級した現在も周囲の目を気にして表面をとりつくろう言動や、「期間がたてば出院になるだろう」という安易な考え方が残つており、その問題性の改善は不十分といわざるを得ない。また帰住環境をみると、保護者は本人の将来を案じているものの、その指導に多くの期待を持つことには無理があり、再び不良交友が復活して再犯に陥る懸念もある。これらの点に照らし、引続き少年院において、約三か月程度出院準備教育を施して出院させ、その後も約三か月程度保護観察に付し、専門家の指導を仰ぎつつ、段階的に社会復帰させることが、本人の更生を期す上で必要と思われる。

よつて少年院法一一条二項により、昭和五六年一月一五日までの収容継続を申請する。

(当裁判所の判断)

1  本人は、昭和五四年七月三日当庁において、中等少年院送致の決定を受け、同月六日多摩少年院に収容され、同五五年七月二日をもつて少年院法一一条一項但書による収容期間を満了するものである。

2  そこで、少年院における処遇経過をみると、(一)昭和五四年一〇月九日他生とのけんかにより謹慎五日一級下から二級上への降級処分、(二)同年一二月二七日生活態度不良等(いやがらせ、暴行、副食の不正授受等の紀律違反)により謹慎一〇日の処分、(三)同五五年三月一日不正持込等により謹慎五日の処分をそれぞれ受けていることが認められる。もともと本人は能力的には恵まれており、作業要領もよく、手先も器用であるが、自己顕示欲が強く見栄つ張りの性格が未だ十分に矯正されていなかつたことおよび要領の良い生活態度が上記処分の原因となつた反則行為に結び付いたものと思われる。このほか本人には自己中心的で軽佻なところが今少しうかがえ、自己の問題点に対する認識を深めるよりも自己弁解に走りがちなところがみられるなど、性格上幾つか改善すべき点が残つており、その犯罪的傾向が十二分に矯正されたとは言い難く、現時点で社会復帰させるには不安が残ることを否定することはできない。そうであるから、なお出院準備教育を施した上、出院させるのが相当であるという本申請はその点で理由があるものといわなければならない。

3  しかしながら、入院当時に比べると本人には著しい成長が認められ、また本人は、昭和五五年七月二日の収容期間満了によつて退院できることを期待し、その故にか、同年五月一日一級上進級後しばらくは上記の問題点がしばしば見受けられたが、その後は本人の自覚も高まり、現在では、更生意欲も大きな盛り上りをみせていることが認められる。これらの点および本人が既に満二〇歳の成人に達していること、入院前に比べると家庭環境も大きく改善され、保護者の指導意欲も相当に認められること、出院後の就職先も確定していることなどをも合わせて考えてみると、本人に対する出院準備教育は、これをできるかぎり短期間で実施し、早急に本人の出院を実現するという態勢に持つて行くことの方が、本人の更生意欲を一層高めるのに役立つものであると解される。また、その出院についても、保護観察を伴う仮退院という形にするのでなく、確定的な本退院とした方がより一層本人の自覚を促すことができ、結局は本人の自立的な社会復帰をより円滑に実現させるものであると期待される。

4  そうしてみると、上記の出院準備教育には少なくともなお一か月の期間が必要であると解されるから、本人に対する収容継続の期間はこれを昭和五五年八月二日までと限定するのが相当であると認められる。

5  よつて、少年院法一一条二項および四項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 本田陽一)

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